配置された小物が語る、エロでセンチでエモくてムーディーなストーリー
【第11回】美女ジャケはかく語りき 1950年代のアメリカを象徴するヴィーナスたち
さらにイメージの連鎖で恐縮だが、「WIRED FOR SOUND」の回路図から思い出したのがエキゾ・ミュージックの歌姫、エセル・アズマの「EXOTIC DREAMS」。
モデルの顔の前にやはりWIREDな針金の顔型オブジェが置かれている、とってもユニークなジャケットだ。ちなみに女性モデルは歌っているアズマさんではなく、エキゾの大御所マーティン・デニーの数々の作品のカバーを飾ったサンドラ・ワーナー。
有名モデルだが、これはもう小物のほうが主役になっている。なにしろ彼女はボケていて、ピンが合っているのは、針金オブジェのほうなのだ!
となるとアートディレクター業をしてきた筆者からすれば、ヴィジュアルのコンセプトは、まずこの針金オブジェがあって、そうね、そこに女性モデルの顔を重ねよう、なんてのが自然だと考える。ま、モデルありきとしても、ともかくふたつの顔を重ねたら面白いだろうね、とか。
ところが、ここにびっくりする別のジャケットがある。
マーティン・デニーの「HYPNOTIQUE」をよく見て欲しい。左にこの針金の顔型オブジェが置かれているではないか! しかもモデルは髪型も同じサンドラ・ワーナー。
もっとよく見ると「EXOTIC DREAMS」で、ワーナーの背後の後光のような円形の和傘のようなもの、これも同じのが「HYPNOTIQUE」に2個も配置されているではないか!
う~む、とレコード番号を調べると同じ1959年の製作だが「HYPNOTIQUE」が先で、「EXOTIC DREAMS」が後だった模様。
使い回しについてはこの連載の第5回で書いているが、これも見事な使い回し。エキゾ・ミュージックの大スター、マーティン・デニーのアルバム撮影のためにモデルや小物が用意され、そのときにエセル・アズマさんのアルバムの写真まで撮った、あるいはたんにボツ・カットをアズマさんのほうに使っただけなのかもしれない。
アズマさんはちょっと可哀相なのだが、ジャケはどちらもすこぶる良い。ようするに小物が主人公になって、ジャケットのヴィジュアルを決定づけているのだ。
1950年代のムード・ミュージックの良質ジャケには、小物使いに凝ったものもそれなりにあるが、「EXOTIC DREAMS」と「HYPNOTIQUE」のジャケはほとんどアート的である。
この連載の第2回目でもエキゾ・南洋もの美女ジャケを取り上げたが、そこには載せなかったものにイマ・スマックの「LEGEND OF THE JIVARO」というアルバムがある。
これは拙著『Venus on Vinyl 美女ジャケの誘惑』にも取り上げたが、エキゾチック・ミュージックの奇作とでもいうべきものだ。
なぜかといえば、エキゾといえばだいたいハワイやポリネシアなどの南洋ものをまずイメージする。温暖で居心地良い南洋エキゾ。
ちょっとダンサブルにエキサイティングなほうに行くならアフリカものだ。南洋もアフリカものもエキゾ・ミュージックの大御所、レス・バクスターが膨大な楽曲を作曲し、ヒットさせて50年代後半のムード・ミュージックの一ジャンルとして根付かせた。
でも、第二次世界大戦にアジアに進駐した米軍兵士たちは、東南アジアの文化も持ち帰っていた。そう、オリエンタルものもエキゾの大きな柱になったのだ。南洋、アフリカ、そして東洋。これがエキゾの3大柱だったのだ。
だが、イマ・スマックはというと、なんとインカ帝国の王族の末裔という触れ込み! ちょっとマージナル(周縁)だし、マニアック過ぎるでしょう! というクチだったが大手レコード会社Capitolレコードが契約したこともあって、コンスタントにアルバムをリリースした。
その1枚が「LEGEND OF THE JIVARO」というわけだ。小道具はスマックの顔の前でグツグツを煮だって湯気の出ている鍋。いやはや、強烈。
しかもライナーノーツ(解説)には、スマックは夫とともにアマゾンの首狩り族とともに生活した、とまで書かれている。そんな大嘘はどうでもよいのだが、アルバムにストーリー性を持たせるためにここまで、セットを作ってエキストラを使って小道具に凝ったことは素晴らしいと思う。しかもセンスがイマイチでいかにもB級テイストなのもご愛敬なのだ。